お笑い【取調室連行24時‼️】ヤクザvs桜の代紋「取り調べ」は脅し・取引・ウソ八百
【塀の中はワンダーランドVol.6】どっちがヤクザ⁉️
元ヤクザでクリスチャン、今建設現場の「墨出し職人」さかはらじんが描く懲役合計21年2カ月の《生き直し》人生録。カタギに戻り10年あまり、罪の代償としての罰を受けてもなお、世間の差別・辛酸ももちろん舐め、信仰で回心した思いを最新刊著作『塀の中はワンダーランド』で著しました。桜の代紋(デカ)とヤクザ・・・銃(暴力)で支配するのは、警察もヤクザも「原理的」には同じ。治安維持の正義をタテに銃をカタギ(市民)に向ける分だけ、桜の代紋はちょっちタチが悪い。その正義がリアルに迫るのが・・・取調室の現場。別件・脅し・握り・隠ペイ・取引は当たり前! 「事件は、取調室で起きている‼️ 」。そのオモシロおかしい全貌を数回にわたりドキュメントしていきます。
◼️「何がション便だ! 別件じゃねぇか!」
それから一週間後、ボクは笑うに笑えない、しかし、嘲笑われて当然の、トンマで間抜けでドジな逮捕劇の主人公を演じてしまったのだ。
「ポール・フィッツジェラルド」のまま、田無警察に連行されたボクは、過去の犯罪歴から、カード詐欺の件はそっち除けにされて、強制採尿の令状を執行される寸前までいった。そして尿を任意提出するまでの数時間、ボクは暴力担当の玉木という係長と、尿を任意で出せ、出さないの押し問答を繰り返していた。カード詐欺にドラッグの使用がついたのでは量刑的にもいい線にいってしまうからだ。こっちも身体がかかっているから必死だった。
そんなことから、取調室では、ボクと係長の激しい怒鳴り合いが続いていた。
「ふざけんじゃねぇよ!何がション便だ! 別件じゃねぇか!」
「うるせぇ!ぐだぐだ言ってねぇで、大人しくション便出せぇ!」
「誰が出すもんか! そんなに出してほしけりゃ、オレに頭下げて『お願いします』と言ってみやがれ」
「何を! おーし、憶えてやがれ。あとで泣くなよ。この野郎!」
こんな具合で、ボクは頑として任意での尿の提出を拒否していたのだった。
係長はわかっていた。尿検査をすれば必ず〝ヒット〞すると……。しかし、任意で尿が採れないとなると、煩わしい令状請求書を作成して、裁判所へ強制採尿の請求をしなければならなくなることから、それを避さけるためにも、どうしてもボクに任意提出をさせようとしているのだ。
睨み合っていた係長の仏頂面が、アゴを突き出すようにして横に振られたかと思うと、椅子を蹴るようにして立ち上がり、取調室から出て行った。代わりに入口に立っていたイガグリ頭の刑事が入ってきた。
「サカハラ、そうカッカするなよ。まぁ、落ち着いて一本吸いなよ」
センスの悪い花柄模様の派手なオープンシャツを着たイガグリ頭が、パーラメントの煙草の箱を机の上にポンと投げると、ボクの前に座った。
愛嬌のある丸い顔には、柔道で寝技をかけられてできた耳ダコの餃子が張りついていた。イガグリ頭はデカというよりも、関西のお笑い芸人パチパチパンチが上方お笑い劇場でヤクザに扮したといったような感じだった。
こいつはアカ抜けねぇな。しかも薄給取りのくせに、生意気にもパーラメントなんか吸ってやがる、と、ボクは机の上に投げられたパーラメントの箱を見て思った。
ボクが無言でいると、イガグリ頭は目の前のパーラメントの箱から一本抜き取って軽く口に咥え、机の上から100円ライターを掴んで、気取るようにして火をつけた。そして歌舞伎役者が眉間に縦皺をつくるような顔で、旨そうに紫煙を吸い込んだ。その顔は東映ヤクザ映画の主人公が、さも旨そうに煙草を吸っている風情を意識している感じだった。
しかし残念ながら、その見てくれは渋い俳優とはほど遠かった。そんなイガグリ頭が、スチール椅子に仏頂面で踏ん反り返るボクに、「そう仏頂面してないで、一本やりなよ」と再び勧めてきた。
「いらねぇよ。そんな縁起の悪い、仏滅みたいな煙草はよ」
ボクが言い返すと、イガグリ頭は驚いた顔をして、指の間から紫煙を上げているパーラメントに視線を落とし、不可解な顔で眺めた。
そんなイガグリ頭にボクは言った。
「パーラメントを吸っている不良は、どういうわけだか、皆、詰んじまってるんだ。だからそれを吸っているお巡りさんも、これから先、芽が出ないかもしれないぜ」
するとイガグリ頭は驚き、改めて喰い入るようにパーラメントに見入った。
歳の頃45過ぎに見えるイガグリ頭は、自分が係長になれないのは、もしかしたらこの煙草のせいなのかと考えていたのかもしれなかった。ボクはまた言ってやった。
「だいたいからして、ショボい月給取りのお巡りさんから、オレがそんな高い煙草をもらったんじゃ、気の毒だろう」
するとイガグリ頭は、「安くはないなぁ……しかし、高い煙草を吸ってそのうえ芽が出ないんじゃ、割に合わねよなぁ」と、少しガッカリしていたが、「でもさ、オレはパーラメント気にいっているんだ。オレにはこの煙草が合っているんだよ」
納得したように机の上のパーラメントの箱をヒョイと掴んでかざすと、「ほれ、このパッケージ、なかなかいいだろう」そう言って、ニッコリした。
イガグリ頭は、ボクのシニカルな言葉も意に介さず、飄々としていた。
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2020年5月27日『塀の中のワンダーランド』
全国書店にて発売!
新規連載がはじまりました!《元》ヤクザでキリスト教徒《現》建設現場の「墨出し職人」さかはらじんの《生き直し》人生録。「セーラー服と機関銃」ではありません!「塀の中の懲りない面々」ではありません!!「塀の中」滞在時間としては人生の約3分の1。ハンパなく、スケールが大きいかもしれません。
絶望もがむしゃらに突き抜けた時、見えた希望の光!
「ヤクザとキリスト〜塀の中はワンダーランド〜」です。